102. 元蛇の湯 (1999.6.2)

母は、すっかり「元蛇の湯」のファンになった。
ここには、母の心をグッとつかむものがそろっている。

もちろん・湯がいい。
一番いいのは、混浴の露天風呂。
あとは男女が分かれて入る湯が2つずつある。
長期滞在用には、自炊可能な湯治場があるから、安く泊まれる。
とまぁ、ここまでは、よくある温泉宿だが、他にも特筆すべき点がある。

第1に「東洋医療研究所」という看板をかかげていて、針・灸の治療を行う。
母は、足の痛みに耐えきれずに、初めての針に挑戦したところ、この上なく効いたようだ。

第2に朝の太極挙。
普段、足が痛いの、腰がどうの、と言っているくせに、ここでは太極挙なんかやってしまうんだから、やっぱり病は気からきているな。

第3に温泉プール(プールと呼ぶにはちょいと狭い)があり、その中を歩きまわる。
泳げない母は、湯の中を歩くことを楽しみにしている。
水着(というか、水中トレーニングウェアとでも言うべきか)を無料で貸してくれる。

第4に薬膳料理。
朝・晩の料理は、すべて薬膳。
身体によさそうなものが、ちょうどいい味付けで出る。
それだけで、便秘が治りそうだ。

そしてきわめつけは、こちらのオーナー。
女あるじのその人は、紺色の甚平を着て、テキパキと指示を出す。
薬膳は、「まず食前酒から飲むように」とか、「朝鮮人参の天婦羅は、冷めないうちに食べるように」と指示される。歯切れのよい言い方で、母は、やけに従順だ。身内から指示されると、かなりの抵抗を示すのに、この素直さは何なんだ?

建物自体は、どちらかというと古くて、お世辞にも美しいとは言えず、みやげものもろくにおいていない。
そこで、隣に立つホテルにみやげものを買いに行く。コーヒーを飲むのもホテルのロビーを拝借する。
ホテルの方も心得ていて、浴衣姿の我々を快く迎える。

唯一の欠点は、車で行くにはいいが、汽車で行く場合は、遠いことだ。
「中山平温泉駅」(無人駅)で降り、そこからまた結構な距離があり、秘湯とまではいかないが、やはり、「来たぞ〜」という感じにはなる。おそらく、前もって連絡しておけば、迎えに来てくれるとは思う。

さて、母の勢いはとまらず、このままでは、また近々行くであろうと予想される。

温泉に行きたい時には、まず「あ〜、足が痛い・やれ腰が痛い」と言い出し、まわりの者が「温泉にでも行ってくれば〜」と言えばしめたもの。
「ほんだね〜、温泉に入れば治るごって」と、作戦も単純だ。
ということで、最近、また「足が痛い」が始まっているらしい。