141. 急に手術が決まったら (1999.10.9)

ボニートの隣は成子天神という神社だが、その向こうに「kレディス・クリニック」がある。
新しい建物、大きな窓ガラス。道なりに、ゆるやかに丸みを帯びた明るい色の建物は、病院というよりはカフェテラスのようなたたずまい。
明るくてよい。なにしろ、近い。
ふらふらして、歩く気力なしの私は、迷わずこの病院に入る。

受付に行き、症状を話す。
「うちは不妊治療の専門ですが、よろしいですか?」ときかれる。
(へ? でも婦人科よね? と思いながら)「はい」と答える。
不妊治療の専門医があることを、この時まで知らなかった。
「診察に要する時間が他よりも長いので、少し、お待ちいただくことになりますが」と言われるが、
もう、私は歩く気力がないのです。
「はい、かまいません」と言い、待ち合い室で待つ。

椅子に座ると、まわりを見る余裕が出る。
当然のことだが、婦人科の患者は女性だけ。
私は、女子高/女子大と、女ばかりの環境に身をおいた時期があったが、最近は、男性の中にいる事が多い。知らず知らずに、女性らしさの対極にいることがある。
「オ〜、女ばっかりだぜぃ」てなことを思う。

ここの患者さんには、きちんとした身なりの人が多い。
Tシャツにジーンズで、頭ボサボサは、私だけだ。
幸せな結婚生活を送っている様子が伺い知れる。ただ一つの問題は、子宝の恵まれない事なのだろう。

診てもらうと、すぐに原因は判明する。
生理の血が外に流れずに、子宮内に溜まってしまっているらしい。
先生2人が念入りに診て、処置法を相談している。

「子宮内の血を吸い出す方法もあるけれど」と前置きした後、
「切った方がいいでしょう。悪い方の卵巣を除去する手術です」
(へ? 手術なの? そんなに悪かったの?)気が動転する。

「卵巣は2つあって、片方をとっても、妊娠は出来ますので安心して下さい。」
「手術」の二文字が頭の中でグルグルまわる。
「子供を作る予定はありませんので、両方とってもらってもいいんですけど」とわけのわからぬ事を口走ってしまう。
ここが不妊治療専門ということを忘れて。

先生は、「そんなことではいけませんよ」と優しくしかる。
「ここには40歳を過ぎた患者さんも大勢います。あなたも、例えば3年後にいい出会いがあって、子供が欲しいということになるかもしれませんよ」
たしかに将来の事など、誰にもわからない。

「では、明日は御飯を食べずに来て下さい」と言うので、
「昨日から、何も食べていないのですが、明日の朝まで食べないということですよね?」と確認すると、
「なに、どのくらい食べてないの?」ときかれ、まる一日以上、水も通らないことを話す。

「では、これからやりましょう」
「え、これからですか!!」
手術の内容、そのための検査の事、入院の予定などの説明が始まる。私は、いちいち「はい」と返事するが、頭は仕事の段取りのことなどでいっぱいだ。

「と・とりあえず会社に電話を一本入れさせて下さい」てなことで、会社に連絡する。
スタッフ一同、絶句する。それもそのはず、土曜日まで、私は元気だったのだから。ま、とにかく準備OKだ。
さぁ、煮るなり焼くなりしておくれ。