218. ジャイアンツおやじの憂鬱 (2001.10.6)

JR新宿駅・西口を出て右手に向かうと、大ガードと呼ばれるガードがある。
それを背にして、青梅街道を中野方向に15分ほど歩くと、右手に成子天神がある。
神社の参道脇、細い路地を奥にすすむと、左手に「Branch」という喫茶店がある。

毎日、ここでランチを食べている。
マスターと奥さんと、若い女性の3人がテキパキと客の対応をする。
マスターは、赤いバンダナをキリっと巻き、ジーンズをはいて、エプロンをかけている。
「ッラっしゃい」と東京人らしい歯切れのよさで迎えてくれる。

ランチには飲み物がついて850円。
私は、夏の暑い日もホットコーヒーを飲む。通い始めるとすぐに「ホットですね」と覚えてくれた。

マスターが作る料理には「お芋の煮っころがし」や「ひじき」など都会の食生活に不足しがちな食材が入っている。みそ汁が付く。美味い。

ほとんどの客は常連だ。味とマスターと店の雰囲気に惹かれて常連になる。
それほど広くない店内は、昼どきには、あっという間にいっぱいになる。
家族的な空気が優しい。

10月1日・月曜日、いつものように店に入った。
あれ? 今日は客が少ない。

「今日は、オヤジ達が誰も来やしね〜」とマスターが言う。
「長嶋も辞めたしなぁ」

昨晩は、長嶋監督が東京ドームで行う最後のゲームというので、日本テレビが大々的に放映した。
「マスターも巨人ファン?」
あたりメ〜よ、そんなコター聞くな、という目でチラリとこちらを見ると
「俺と長嶋はおない年なんだ。長嶋が頑張ってる間は、俺も頑張ろうって思ってたけど、辞めちまうからなぁ」ニしんみり。

店内には、ビートルズが流れている。

働く女性達は(年の頃は長嶋より少し下といったあたりか)「あたし、泣いちゃったわよ」と意見があう。
マスターはそれには答えずに、黙々とランチを作る。

長嶋と同世代のオヤジは、「引退」の2文字を自分の人生に重ね合わる。
とうとう、その時が来たという覚悟と落ち込み。
心にポッカリ開いてしまった穴をふさぐすべがない。

それに反して、辞めていく長嶋監督の顔は晴れやかだ。
ひとつの事を為し遂げた人は、こういう顔をするのか。
「引退」よりも「卒業」していく感じだ。また、次の事にチャレンジするに違いないと、誰もが思っている。

ジャイアンツおやじ代表の徳光さんは、テレビ画面の中でオイオイ泣いていた。
それを見て、おもわず、もらい泣きをした人も多いに違いない。
クライアントのKさんの父上も、オイオイ泣いた口らしい。

オヤジを泣かすというのは、不思議な魔力だ。
我々の世代を見渡しても、そういう人は見つからない。
ある意味、同世代に圧倒的なヒーローを持つ65歳達は幸せかもしれない。

そういえば、私の愚母も65歳だ。
母は、姑の三回忌が済んでから団体旅行に参加するようになり、娘のようにはしゃいでいる。
65歳というのは、これから、また一つ新たな事に挑戦できる年齢でもあるのか。

さて、あなたは何に挑戦する?
私は、この秋から、性懲りもなく、また新たな事にチャレンジすることにした。
あんまり恥ずかしいから、まだ言えない。三日坊主にならずに成就できそうなら、ここに書きたい。
(もったいぶって、申し訳ない)