44. 病人が2人 (1999.1.3)

祖母と父が入院している。
別々の病院にいるから、見舞いも大変だが、病人はそんなことにはおかまいなしだ。

祖母は、次第に眠る時間が長くなり、会話も長くは続かない。
それでも、食欲はある。
正月に、祖母の大好きな「あんこ餅」を持っていったら、うまそうに食べる。
喉につまらせてはいけないと、ずっと見ていたが、なんのことはない。うまく食べた。
食べたら、また眠ってしまった。24時間中23時間半くらい寝ている。

父は、だいぶ回復している。
病院生活には、すっかり飽きて、午後になると何度も電話をよこす。
こっちは、年末年始で忙しいのに、呑気なもんだ。

父は、昭和ひとけた生まれで、戦争体験もあるはずだが、好き嫌いがあり、にんじんなどは、きれいにとりのぞいて食べる。いまどきの若者のようだ。
ある日、父の嫌いなトマトジュースが飲みかけてある。
「ちゃんと飲まいよ」(気仙沼弁:ちゃんと飲んでね)
「わがってる」
すると、目を離したすきに、孫にトマトジュースを飲ませようとしている。自分は飲んだふりをしようってわけだ。なんだかなぁ。

リハビリをかねて病院内を散歩する。
すると、ガウンがほしいと言い出す。
母が持っていったどんぶく(どてら)では散歩もできないと、わめくから、デパートに買いに走る。スリッパも、と新しいのを買う。
もう、この人って、本当に物のない時代を生き抜いたのか、と疑う。

というわけで、父は、いくつになっても「とっちゃん坊や」なのだ。