81. ばあさん・その後 (1999.5.8)

ばあさんは、1年以上寝たきりだ。
すっかり痩せて、こんなに小さくなれるのかと感心するほど、小さくなってしまった。

この冬、父が5カ月ばかり入院した。
自分が退院すると、まっさきに母(ばあさん)の見舞いに行ったそうな。
「ばあさんや大丈夫すか?」とたずねると、
「あんだ誰っさ?」と言われたそうな。
とうとうボケた。
父・ショック!

父は、祖父亡き後、ずっとばあさんの面倒を見てきた。
「ボケたって、自分の事だけはわかってくれる」と信じていたらしく、
「あんだ誰?」には、相当、参ったようだ。

さて、私がばあさんに向かって「私の事わかる?」と聞くと、
「だ〜れ、孫だもの」と言う。
父は、「え?」ってな顔でこちらを見る。

「この人だーれ?」と看護婦さんが聞くと、「リーコ」と答える。
ばあさんは私のことを「リエコ」と言えずに「リーコ」と呼ぶ。

「どこに住んでいるの?」と看護婦さんが聞く。
「トーキョ」
場内ざわめく。

父は、「ほんで、俺のごと、わがるすか?」と、負けずに聞く。
わかるともわからないともつかない顔で、こっちを見る。
「おばあさんや!」父、必死。
すると「さんま買ったのすか?」だって。

父がさんまで儲けた頃を思い出しているにちがいない。
父の顔がさんまに見えるらしい。

さて、ひ孫のよっちゃんがばあさんを見舞った時の話。
ばあさんの手をとり、
「おっぴーちゃん、こんなに痩せてしまって〜〜...」としんみり言ったそうな。
よっちゃんはまだ4歳なのに、言うことだけは一人前で、病室を明るくしてくれる。