89. 奇跡はある (1999.5.16)

私が通った女子高校の体育の授業では、これが出来ないと卒業できない種目がいくつかあった。
といっても大した課題はなく、むしろ、これが出来ずに世間に出ては恥ずかしい、程度のものだ。
鉄棒・とび箱・マット運動・社交ダンス・水泳などがそうで、得意・不得意がある。
受験とは全然関係ないのに、3年の体育の授業は、必死になる。1〜2年はさぼってばかりいるのに。

私は、鉄棒が苦手だ。
子供の頃から苦手で、鉄棒に近づかないように生きていたのに、そのしっぺ返しか。
鉄棒の課題は、逆上がり・前回り・片足まわり・それらの連続技、などである。

第1回目の試験は、やっぱり不合格。
合格した友人がコーチになってくれて、あ〜だ、こーだと指導する。
2/3以上は合格している。

第2回目の試験もダメ。
こんなことで卒業できなかったら、どうしよう? 泣きたい。
この時点で、3/4以上が合格したと思われる。

私は、どの種目も、ただの一度も出来ないから絶望的。
友人は、例えば、逆上がりだけは合格していたりする。
「連続技だけが、どうしてもダメなのよね〜」と嘆きの声が、私には余裕のコメントにさえ聞こえる。ますます落ち込む。

第3回試験日、クラスじゅうが応援してくれる。
「リー・がんばって〜」
目をつぶって、精神統一。すると妙な力がみなぎって、出来るような予感がする。
無意識のまま鉄棒を握り、そして気がつくと、クルリとまわっていた。
え? 出来ちゃった?
続けて、すべての種目をクリアしたのだ!
「ヒュー!」歓声がわく。
「ヤッタ〜”」
先生もクラスメートも、そして私自身が一番信じられない。

授業が終わると、皆が集まり、「リーおめでとう〜! もう一回やってみて〜」とはしゃぐ。
「うん!」と鉄棒を握った。
ドタ!....................え〜〜〜?................うっそ〜〜〜

それらの種目は、今日まで、二度と再び出来ることはなかったとさ。
あの瞬間、突然、身体が軽くなり、自分ではない誰かの力が私をクルクルと回らせた。
何回でも回っていられるような気さえした。

そ〜か、奇跡は起きるんだなぁ〜。